長崎県を文化王国に テレビで某県のえらい人が「当県をスポーツ王国に」と言っているのを眺めながら長崎県のことに思いを馳せていた。たとえば長崎県をスポーツ王国に(がんばれVファーレン)、観光王国に、造船、工業、農業、水産、福祉、ずーっといって、芸術・文化王国なんてどうなんだろう。
あまり知られていないが「文化芸術振興基本法」というのが平成十三年度に施行された。経済大国と言われてきた日本国が「これから我が国は芸術大国を目指します」と言っているのかどうか、第一条を引用してみる。
この法律は文化芸術が人間に多くの恵沢をもたらすものであることにかんがみ、文化芸術の振興に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、文化芸術の振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより、文化芸術に関する活動を行う者の自主的な活動の促進を旨として、文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図り、もって心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。(文化芸術振興基本法 第一条「目的」)
そして、地方公共団体たとえば長崎県は、文化芸術の振興を推進する責任があり、国はそのための法政・財政の措置を講じる云々と続く。
「振興」という文字から連想されるのがおよそ五十年前に施行された「離島振興法」。離島の多い長崎県に多くの恵沢をもたらしてくれたことは疑う余地はないが、心豊かで活力ある社会が実現したかは異論のあるところではないだろうか。各地で様々な文化活動を行う私たちは、この「振興」基本法の目指すものをたえず念頭においておかなければいけないのではないかと思っている。
英語のgenerationには30年という意味もある。親から子へひとつの世代が入れ替わる時間という意味だろう。平戸市文化協会はまもなく設立30周年を迎える。まさしく私の親の世代が設立し、私は五年前より代表を仰せつかることとなった。これまでの間、地域における文化協会の役割は大きく変化してきたように感じている。
もともと文化という言葉は相当に包括的なものではあるが、平戸の場合は更に多くの歴史資産が文化協会の守備範囲となる。結果
、音楽を原点に参加した私も歴史と無縁ではいられない。歴史を活かしたまちづくり事業、平戸オランダ商館の復元、日蘭交流400周年(「12xおらんだ」)など歴史に根ざした多くの事業にこの文化協会を通
じて関わらせていただいている。
近年では、藤浦洸、黒崎義介といった、昭和のある時代、全国の人々を惹きつけた平戸出身の芸術家の顕彰事業も行った。また、大航海時代に遡れば、平戸を世界史に登場させる役割を果
たした人物も少なくない。江戸幕府の重臣でもあり、平戸オランダ商館設置に大きな役割を果
たしたウィリアム・アダムス(三浦按針)については、近年ようやくオランダとイギリスの外交担当者の臨席をいただいての記念事業が定着してきた。一方では台湾をオランダの植民地から解放した鄭成功について、その生誕地の方々を中心に、毎年台湾や中国から多くの参列者を迎えての生誕祭が行われている。
平戸オランダ商館復元の動きが具体化するにつれ、城下町としての町並みを見直そうという動きも始まった。平戸の文化をまちづくりに生かす、という意図のもと、いくつかの出版事業も行ってきた。これはこの10年ほどの平戸市史編纂事業へとつながっている。
こういった新しい動きを採り入れながらもこの30年間ずっと開催を続けてきたのが、平戸市文化祭である。現在では「平戸市文化まつり」と名称を変え、平戸市美術展とも連携しながら「舞台発表」「生花展示」「茶道呈茶」など、会員中心の包括的な活動発表の場として、会員自らによって運営されている。素人芸が圧倒的に多い中で、入場を無料としないのも特徴のひとつかもしれない。財源的というより、会員の参加意識とコスト意識、ひいてはこの費用負担を参観者にどう還元すべきかという観点で、自らの芸を高め、未知の喜びと出会うきっかけにして欲しいという思いからである。文化では食えないと言われて久しいが、私たち文化協会のリーダーがそれに納得していてはいけないと思う。これは文化を経済へと転換していく小さなひとつのチャレンジでもある。
平戸市には現在、平戸神楽と平戸ジャンガラという国指定の重要無形民俗文化財がふたつあり、当然私たちの会員でもある。指定の形態を問わないのであれば、もっと多くの伝統芸能・伝統行事が存在する。今、地方のこういった伝統芸能・伝統行事の保存には、多くの困難を伴うようになってきている。私たちの暮らしぶりの変化が大きな理由ではあるが、こういった芸能・行事に携わる人々の誇りや愛着は未だ極めて強いものがある。この思いを次の世代につなげるための、単に財政的なだけではない確かな手だても必要だ。古来、神様に芸を奉納する人を芸能人と称していたという。ここからまた新たな芸能人が誕生し、やがては文化王国長崎県が実現することを願ってやまない。
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