「ウィルとのステージ」

〜フルートと薩摩琵琶のコンサートin平戸〜

                                                 町田 雅之
 西暦2000年までには平戸でのコンサートを実現する、とは前回ウィルと会った時の約束だった。この春、平戸オランダ商館復元の市民運動が始まった。復元もはっきりしないとはいえ、復元されたら何に使うかという話しは大事なことだ。そんな矢先、日蘭交流400周年に向けて、オランダから若いアーテストを月替わりで派遣するプランがウィルから届き、その先触れとして5月5日、平戸での簡単なコンサートを実行することになった。商館復元の運動と組み合わせて効果的にやろうという仲間たちの手伝いを受けながらも、私の心にはウィルほどの達人と初めて共演することなった期待と不安が渦巻いていた。
 ステージはウィルのフルート独奏による「鶴の巣篭り」で開けられた。尺八の名曲である。コンサートのオープニングに客席の中を演奏しながらステージにたどりつくというのが、この曲のマナーのようになっている。ウィルもそうしながらも、尺八の模倣ではなく、それを越える表現に挑戦しているのがわかる。
 2曲目はウィルのパートナー、上田純子の薩摩琵琶独奏は肥前松浦党の登場する「壇の浦」。次はウィルのバスフルートと純子の琵琶の合奏で「五木の子守歌」。メロディーというよりは、静かなエネルギーを持った音が空間をただよい情景を作り上げていく。
 4曲目はウィル作曲の〜ビンとフルートのための〜「ジャングル・ダンス」。この演奏のために長崎からはコントラバスフルートを持参して応援にかけつけてくださった武次さん、熊本からは泊りがけのビン持参でご参加いただいた上に、地元の高校生達をとりまとめてくださった緒方さん、そしてフルートパートのみならず、ワケもわからずビンを持たされてなお立派にステージで役割をはたしてくれた高校生たちに心から感謝しなければならない。私も彼等に囲まれ、ウィルからは強烈な技巧のアドリブを繰り出されながらなんとかソロをつとめることができた。
 5曲目は「親指笛によるインプロビゼーション」。彼考案の、筒に吹き穴を開けただけの「親指笛」を吹くのは初めてだ。リハで向き合ってフレーズを習い、タイミングだけを打ち合わせての「共演」。彼のコメントはいつも「ダイジョウブ」。
 ディレイを通したフルートに、良くとおる純子の声との組み合わせが不思議な空間を醸したオリジナル「How to Survive in Paradise」は、ここが平戸の公民館だということを忘れさせるひとときだった。
 プログラムの最後はウィルと二人での「赤とんぼ」。譜面は全く使わず、ひろげたノートに、曲の構成を「絵」に書いて、ここがオレ、これがオマエ、という程度のわずかなやりとりだけ。お互い一本のフルートによる「インプロビゼーション」の会話の後、おそるおそる吹き始める耳慣れたメロディーにウィルが鮮烈なハーモニーをかぶせてくる。たぶん客席からは私たちが寄り添うようにしてフルートを吹く姿が、とんぼがとまったように見えたはずである。ウィルの日本語と私の英語はたぶん同じくらいのレベルだろうが、言葉にたよらずこれだけのことができてしまう。芸術で交流しようというウィルの気持ちは間違いなく伝わった。
 しめくくりは琵琶独奏による有名な「祇園精舎」のさわりの部分。授業で暗唱させられるあの一節が、生で語られるのを聞くことができるありがたさを、居合わせた高校生たちはどれほど感じてくれたろうか。
生月自然の会会報「えんぶ」30号(98年5月発行)に掲載
Wil & Junkoのサイト、Studio-E

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