接 点


町田 雅之 

 平戸のオランダ商館は、幕府からの出島への移転命令によりその殆どが破壊された。しかしオランダという名前とともに残ったものもいくつかあり、そのひとつがオランダ埠頭である。オランダのフルーティスト、ウィル・オッフェルマンズをそこへ案内することができた。しばらくたたずんだ彼は「この石の階段を洗う波の音は、当時のオランダ人が聞いたのと同じだろう。」とつぶやいた。
 この五月、平戸でウィルと薩摩琵琶の奏者である彼の妻とのコンサートが催された。高校生たちも交えたコンサートの内容は小規模ながら充実したもので、フルートで演奏される尺八の名曲や、生身の琵琶で語られる平家物語などもあり、とても興味深いものであった。
 琵琶は、アラビアのウードという楽器が起源とされている。これが東に伝わったものが日本の琵琶であり。西に伝わったものがルネサンス期に大流行したリュートとなる。楽器としてはかなりデリケートなリュートが大航海時代に平戸に持ち込まれたかどうかはわからない。しかし商館長日記には、日本人がリュートに似た楽器でもてなしたことが記されている。
 前記のコンサートから一ヶ月もたたないうちに、オランダとも縁の深いウィリアム・アダムスの命日をまつる「按針忌」が行われ、佐世保市出身のリュート奏者、永田斉子さんが、アダムスの墓前で当時のイギリスで流行していたであろう数曲を演奏した。地方でありながら、一つの楽器が地球の東西にどう伝わったかを、これほど近い時間に、ナマで体験できるというのも、これまでの接点の積み重ねではないだろうか。
 最近ウィルは日本人も忘れかけている「日本風」な最新アルバムをリリースした。現在九州を中心に各地でコンサートツアーの最中でもある。より多くの接点が生まれて欲しいものである。

1998.11.29掲載 

                                  

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