茶 市


町田 雅之 

 初夏の定期市を「茶市」というのは長崎県北地方独特の呼び方らしい。新茶の頃の市だから茶市だというのはいかにももっともである。あるいは窯業がこの地方の中心的産業であった名残として茶碗の市だという説もある。佐世保市史編纂室の前川氏の、韓国語で定期市を指す「ジャンチ」の音が近いという指摘は新しい。
 昨年、平戸延命茶市の第20回を記念して、前川氏のお骨折りで県北五つの茶市の関係者と共に「茶市を語る」シンポジウムを開催した。お客様から見れば同じように露店が並ぶ茶市でも、その内情はきわめて多様で、どの茶市にも人知れない苦労があることがよくわかる貴重な機会であった。
 市の多くが神社仏閣の前から始まっていることは、文献にもよく残されている。平戸藩の歴史にも、宮の前に市があり、16世紀中頃にはポルトガルとの貿易も行われたという記録がある。その頃、多数のポルトガル人が平戸の侍から斬り殺されるという事件が発生した。アジアともヨーロッパともどこかでつながっているのが、この地方の市ではないだろうか。やがて貿易の相手がポルトガルからオランダへ移るにつれて、その場所も宮の前から少し離れた延命町へと移っていった。
 それからずっと後、宮の町と名を変えた宮の前で長い間親しまれていた「平戸茶市」が途絶え、しばらく後に延命町を含む浦の町の若者たちが「平戸延命茶市」を始めたというのも何かの因縁だろうか。始めた頃の若者も、すでに孫のいる歳となったりはしたが、行政を始め、多くの市民や組織が主役として運営に携わってくれるようになった。今年も4月23日からの3日間、多くのイベントと共に行われる予定である。日蘭交流400周年を前に、昨年本欄で紹介したオランダ人フルーティスト、ウィル・オッフェルマンズのコンサートも実現する。

1999.04.11掲載 

                                  

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